『【パイセンに”IPO(国際哲学オリンピック)”について聞いてみた】byヨッシーパイセン(2017年5月にオランダ大会日本代表に選出・広島学院高校2年・UWCアドリアティックカレッジに進学予定)』
<この記事の内容をざっくりと要約すると!>
これは「国際哲学オリンピック」という学術オリンピックの日本代表による、体験談と当活動の紹介記事です。
ちょ、ちょっと待って何言ってるか全然理解できない!っていう人はこちら
➡︎「パイセンに聞いてみた!」って何?!、てか何このサイト?!
【IPO(国際哲学オリンピック)紹介ビデオ】
【以下本文】
初めまして!広島学院高校2年のヨッシーです。今年の9月からUnited World College Adriaticに留学することになり、その縁でここに書かせていただいています。おそらく初耳の人も多かろう、知る人ぞ知る、哲学オリンピックについて紹介したいと思います。
哲学オリンピック一般
まずみなさんは “哲学オリンピック”なるものが存在するのをそもそもご存知でしたか?
アカデミック系のオリンピックは時々話題になるので、生物学、化学、地学、物理、はたまた言語学などのオリンピックを知っている方は多いと思いますし、参加された方も多いのではないでしょうか。しかし、その中でずば抜けてマイナーなオリンピックが哲学です。
実際、僕はネットサーフィンをしていてたまたま知ったわけでもなく、兄が2016年の国際大会に代表として出場し、以前から色々と話を兄から聞いていたので数年前から関わっているわけです。今年の5月に、夢が叶って、オランダ大会の代表に選出されました。とは言っても、国際大会では全く入賞できなかったので (兄は佳作入賞しました)、この記事も内容が絶対にあっている保証はできません。あくまで参考にしてください。
今回は哲学オリンピックがどういう大会かを主に書きたいと思います。実際に国際大会に参加しての感想は、こちらでご覧になっていただけると嬉しいです。
じゃあ、始めましょう。
よくありがちな質問として、「そもそも哲学をどうやって競うの?」といったものがあります。試験で書くエッセイの内容で評価されます、といってもまだわかりませんね。その前に、まず国際哲学オリンピック (International Philosophy Olympiad, 以下IPO) が何を目的としているかを紹介した方がいいでしょう。
今年から採用されたIPOのエッセイガイドには、哲学のエッセイをこのように定義しています。
“A philosophical essay should be an exploratory device, something that starts with a question and takes you on a path towards an answer.”
哲学は問いから始まり、探求をするものである、ということです。
聞いた話なので確証はないのですが、IPOは 冷戦や第二次大戦の反省を踏まえ、高校生の思考の力を深めることを目指して、東欧の6国が1993年に始めたそうです。そのため、哲学といっても、日本の倫理の授業のように哲学の知識量は問題にされません。稀に国際大会ではとにかく哲学者の引用を散々するエッセイをお見かけすることがあり、 “Name Dropping”と皮肉られているんですが、引用したからといって評価が高いわけではなく、「じゃあ、あなたの考えは何?」と言った感じだそうです。2016年大会では、Name Droppingで10枚書いて金メダルとるエッセイもあれば、引用は全くしていないけれども自分の意見を4枚で述べたエッセイも同じ金メダルを取っています。
審査
大会当日には、課題文(大抵哲学者の文章)が四つ与えられ、一つ選択肢、それに対して問いを発し、その問いに答えるべく論じていき、最終的にはその思考の筋道を第二外国語(すなわち日本人にとっては英語、アメリカ人だとスペイン語等)のエッセイの形で表現します。国内予選だと2時間半、国際大会では4時間の制限時間内にエッセイを書くことになります。
審査員は以下の項目についてエッセイの評価をします。
- Relevance to the topic 課題文との関連性
- Philosophical understanding of the topic 課題文の哲学的理解
- Persuasive power of argumentation 議論の説得力
- Coherence 議論の一貫性
- Originality 独創性
エッセイの審査だから審査員によって評価が違うんじゃないの?と思った方。はい、確かに評価にばらつきはあるそうですが、大抵審査員は四人グループで審査をするため、ある程度の採点の合意はなされるそうです。それを踏まえて、得点の平均点でもって入賞が決まります。メダルエッセイになるともっと緻密に採点をすると聞きました。何れにせよ、上記の項目をきちんと守った議論をしていれば点が取れる、ということになります。
IPOに挑戦するメリット
自分の考えやエッセイを採点されること自体に違和感を感じる人もいるでしょう。エッセイコンテストになると、考え自体よりも表現方法を評価されて、ディベートのような大会になってしまうのでは、と思うのは当然です。ところが、IPOでは事情が少し異なります。またエッセイガイドから引用したいと思います。
“In philosophy, we don’t look for what to believe, we look for reasons to believe something.”
“In its essence, a philosophical essay is a well-reasoned defense of a
thesis.”
極論をいうと、結論や主張Thesisはどうだっていいと思っていただいてもいいかもしれません。しかし、どのように論ずるか、どの観点を持ち出すか、どのように反論するか、どういう構成を使うか……そして最後には、自分の論でもって相手を納得させることができたか。これが哲学オリンピックで問われることです。自分の主張に意味を持たせることができたら、エッセイライティングの効果が発揮されたと考えていいでしょう。
普段、文章を書くときにニュアンスに頼ったりしていませんか。ある特定の視点に固執していませんか。それらしいことを言っているけれど、よくよく吟味したら全然論理が繋がっていないような説明をしていませんか。そしてそういう論理をただ鵜呑みにしていませんか。
IPOに挑戦するメリットはここにあります。きちんと “正しい”論を自分で展開し、多様な観点を引き出しに入れる柔軟さをもって、自分の論理を組み立てていく。そしてすべての出発点を「問い」から始める。IPOは論じること自体を学ぶことのできる機会です。
何と言っても大事なのが問いです。問いがしっかりしたものであれば、(そして論が機能していれば)エッセイの深みが格段に変わります。
2016年大会で、シモーヌ・ド・ボーヴォワールの「第二の性」から課題文が出ました。 “One is not born, but rather becomes, a woman.” というものです。それについて論じた韓国代表の金メダルエッセイを紹介します。彼はまず課題文を受けて、 “Do humans possess minds that are distinct from their physical bodies?” という問いを出し、具体例を少し挙げて、実際そうであると書きました。僕もそうであろうと思いました。次の問いが衝撃的でした。 “If this is the case, why do the large majority of people still identify with the gender that is the same as their biological sex?” ジェンダーの議論では心と体を分けて考えがちですが、彼の論点は心身相関を持ち出していたのです。そして最後には体を社会構造に議論を拡張して、ボーヴォワールの主張の大部分を理論づけた形になりました。
問いの力が、お分りいただけたでしょうか?
選考過程
ここまで読んで、IPOに挑戦したいと思った方に、実際にどういう風に選考されるのかを伝えて終わりにしたいと思います。
日本倫理哲学グランプリ(日本語、9月末締め切り、37人応募)
➡︎IPO国内選考会(14人選出中、9人参加、英語、2時間半、1月中旬)
➡︎IPO(2人出場、英語、4時間、5月末)
スタートは日本倫理哲学グランプリです。9月末までにエッセイを書いて応募すれば、国内選考会に残る可能性は大いにあります。なぜって、…応募総数が少ないから! どれほど哲学がマイナーかわかっていただけると思います。
もっと興味がある方は「高校生のための哲学サマーキャンプ」に是非!8月1・2日に東京でじっくり哲学エッセイの書き方を学びます。締め切りがもうすぐなので早めに!これもマイナーなキャンプなので応募したあと選考があると言ったこともないはずです。
実は、日本人でIPOのメダリストはまだ出ていません。入賞も3人しかいません。この記事を読んでくださった皆さんの中からIPOに挑戦してメダリストが誕生したら、これほど嬉しいことはないです。
【さらにパイセンの体験談を読みたい方はこちら】
参考リンク
- International Philosophy Olympiad
http://www.philosophy-olympiad.org
- 日本倫理哲学グランプリ、高校生のための哲学サマーキャンプ
- IPO2017 Rotterdam
- IPO essay guide (IPOページ内)
http://www.philosophy-olympiad.org/wp-content/uploads/2017/01/IPO_Essay_Guide.pdf )